←前のページ 次のページ→   2008年7月21日  
七生養護学校「こころとからだの学習」裁判のいま
弁護士 木村 真実 
はじめに
 私たち日野市民法律事務所の弁護士も多数参加している七生養護学校「こころとからだの学習」裁判は、5月15日に結審を迎え、現在、9月3日の判決を待っているところです。《※判決日決定⇒ 3月12日(木)午後2時東京地方裁判所103号法廷(大法廷)》
 5月15日に裁判所に提出した原告ら最終準備書面をまとめていく過程で、「こころとからだの学習」は、都教委の出していた「性教育の手引」などに沿っており、学習指導要領にも何ら反していないことについてより明らかになりました。
(1)被告らの主張
 都教委が「こころとからだの学習」の実践が誤っているという理由は、発達段階に合致していないということと学習指導要領に反しているということであり、都議や産経新聞もそのことを前提に介入、批判するのだと主張しました。
(2)発達段階に反していたのか
 ア 発達段階の多様性
 そもそも障がい児の発達段階は、同じ学齢でも障がいなどを反映して、健常児以上に様々であり、性に関する発達段階も様々です。まして、七生養護学校の子どもたちには、複雑な生育歴を持った子どもがいて、生育歴がその子どもの教育ニーズをより多様にしていました。その子どもの発達段階は、その子どもと普段つきあっている親、施設の職員や現場の教員などにしか分からないのであり、その教員が親や施設職員と対話しながら進めてきたのが「こころとからだの学習」だったのです。
 イ 形式的な発達段階論
都教委のいう「発達段階」は、例えば「子宮体験袋」を取り上げて、小学校低学年に「出産」を教えることは、発達段階を踏まえていないというものでした。
  しかし、「こころとからだの学習」の中での子宮体験袋は、出産のしくみを教えることに目的があったのではなく、複雑な生育歴を持つ子どもたちに、「お母さんも自分もがんばって、みんなに歓迎されて誕生してきたんだ」ということを伝えるための授業でした。いわば、幼児期に両親などから伝えられるべきことを、小学生になってやっと伝えられたということなのです。
 ウ 発達段階に反していません
 このように、ひとりひとりの発達段階と教育ニーズをよく分かっている現場の教員が、その子どものために知恵を集めて「こころとからだの学習」に取り組んでいたのであり、授業実践を見たことも七生の子どもと話したこともない指導主事たちが一般論で発達段階を論じることはできないはずなのです。
(3)学習指導要領に反していたのか
 ア 学習指導要領の大綱性
 都教委は、学習指導要領にないことをやったからダメなのだと言います。
 しかし、そもそも、憲法23条、26条、教育基本法10条1項および2項の解釈として、教育行政は、教育に関する外的事項につき「諸条件の整備確立を目標として行われ」るべきものであって、教育内容や教育方法について教員・学校を強制することはできません。だから、学習指導要領に法的拘束力は認められませんし、それは教育に関する大綱的基準でしかなく、しかも指導助言的効力をもつに過ぎないものです。仮に学習指導要領の法的拘束力が認められるとしても、旭川学テ判決は「教育の自主性尊重の見地から、これに対する『不当な支配』となることのないようにすべき旨の限定」を明言しており、学習指導要領が「大綱的基準」であることを明らかにしています。
 イ 学習指導要領の基準性
 さらに、学習指導要領の「基準性」について確認しておくことが重要です。学習指導要領自体の中に、「学校において特に必要がある場合には、第2章以下に示していない内容を加えて指導することができる」(盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領第1章第2節第2 1)と明記し、学習指導要領に示していないことを指導できるという基準性が示されています。文科省は、「すべての児童生徒に対して指導するものとする内容を確実に指導した上で、個性を生かす教育を充実する観点から、児童生徒の学習状況などその実態等に応じて、学習指導要領に示していない内容を加えて指導することも可能であるという性格のことを、学習指導要領の基準性としている」と解説しています(文科省「学びのすすめ」2頁)。
 ウ 学習指導要領に反してなどいません
 文部省の「盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説」では「知的障害者を教育する養護学校の各教科」では普通学校の学習指導要領に「準ずる」との規定をおかずに、「同一学年であっても、知的発達の遅滞の状態や経験の程度が様々であり、個人差が大きい」ため」「学年別に示さず、小学部は3段階、中学部は1段階、高等部は2段階」で示したとあります。
 このように、学習指導要領は、「大綱的」「基準」にすぎないのであり、学習指導要領に書いていないからやってはいけない、という都教委の主張は誤りなのです。
  しかも、小学校中学年の保健の教科書には、都教委が攻撃した「ペニス」「ワギナ」が載っています。個別に見ていっても、学習指導要領に反してなどいないのです。
 (4)「こころとからだの学習」裁判を応援して下さい
  このように、「こころとからだの学習」は、子どもたちの発達段階にも学習指導要領にも違反していません。それどころか、都教委が教師用の手引きとして出していた「性教育の手引」や文部科学省の「学校における性教育の考え方、進め方」にも合致していました。
 みなさんにもこうした障がいをもつ子どもたちに対する教育に関心を持っていただいて、「こころとからだの学習」裁判にご支援をいただけますようお願いします。
以上

ブックレット「七生養護学校の教育を壊さないで」
↑Page Top
 →このサイトについて