←前のページ 次のページ→   2004年6月1日  
★東京地裁の仮処分決定を受けて

文教大「松本被告三女入学認める」

弁護士 木村 真実 
 文教大が、アーレフ(旧オウム真理教)元代表松本智津夫被告の娘の入学をいったん認めながらその後不許可にしていたことが30日に分かった。
 三女は3月末に東京地裁に学生としての地位保全を求める仮処分を申請し、東京地裁は、4月28日、「入学許可の取り消しを認める特別な事情や正当な理由があると考えることはできない」として申請を認めた。文教大はこれを受けて入学を認めることとした。
●オウム真理教
 オウム真理教は、日本社会に様々な問題を突きつけた。それまで日本社会が予想しなかった大規模犯罪を生起した集団に、司法も大きな動揺を示し、末端信者の微罪逮捕など問題を残した。
●子どもの教育を受ける権利
 今回の仮処分決定は、親がどのような人間であろうと子どもの教育を受ける権利(憲法26条)は否定されないのだから、当然の決定である。学問の府であり、なかんずく教育学部を看板とする大学が、主に経営的配慮から、このような当然のことを司法に強制されるまで受け入れなかったことが残念である。
●「茶色の朝」の教えるもの
 しかし、自分自身への自戒を込めて、『茶色の朝』という本を孫引きで紹介しておきたい(高橋哲哉「やり過ごすべきではない」『となりのコリアン』所収)。
 語り手である「俺」と、その友達「シャルリー」の2人が登場人物で、午後にコーヒーを飲みながら歓談しているといった平和な日常が最初の舞台です。ある日、「茶色党」という政党が力を増し、「ペット特別措置法」が制定されます。この法律の内容は、猫を対象とするもので、茶色の猫のみを残して、後は処分するというものです。「俺」が飼っている白と黒のぶち猫は、処分せざるをえなくなります。「俺」は胸が痛み、疑問も感じるのですが、科学者によれば茶色の猫は優秀であり、増えすぎた猫による被害があるのだから、優秀な茶色の猫のみ残した方がよいといいます。権威筋がそういっているのだから、それでいいか、と受け入れてしまいます。しばらくして、今度はシャルリーが飼っている犬も同じ事態となり、茶色以外の犬は処分されます。「俺」は驚いたものの、猫同様、まあ仕方がない、茶色の猫や犬を飼えば、ペットも事足りるし、それで我慢しようとやり過ごしてしまいます。すると次は、「ペット特別措置法」に対し手厳しい批判の論陣を張っていた新聞が発禁になり、「茶色新報」という新聞のみが認められることになります。さすがにこれはやりすぎじゃないか、と思ったものの、2人は競馬が好きで、「茶色新報」はスポーツと競馬の情報は満載であることもあって、やり過ごしてしまいます。この発禁の後、茶色以外の思想をもった書物は、図書館や書店から追放されます。この頃になると、2人は茶色であることに違和感を感じなくなり、茶色に守られた安全、安心も悪くないな、と思うようになってきます。そうこうしていると、「ペット特別措置法」が過去に遡って適用されることになり、現在茶色の犬を飼っているかどうかに関わらず、過去に茶色以外の犬を飼っていた者も逮捕されることになります。友人たちが逮捕される事態になり、こんな事なら最初から抵抗しておくべきだった・・・と思いつつ、しかし忙しかったし、毎日やることはたくさんあったし、抵抗すれば面倒なことになるし、皆に合わせていた方が安全で安心だから仕方なかったかな、と思います。すると、「茶色の朝」になり、「俺」の家のドアが叩かれ、「今いくからそんなに強く叩かないで」というセリフで物語が終わります。
 これは、茶色がファシズムを象徴するフランスで、2002年の大統領選挙で極右のルペンが社会党のジョスパンに勝って決選投票に残った選挙期間中に大いに読まれた本だそうだが、先月書いた日の丸・君が代、今回のオウム、この『となりのコリアン』出版の契機となった在日朝鮮人の子どもたちへのいじめなどの日本でも、すぐそこにある社会のような気がしてならない。

■今回で「リーガル・ニュース」はいったん終わります。「リーガル・ニュース」っぽいものもそうでないものもありましたし、1カ月に1本でしたので、取り上げていない中に取り上げるべきニュースが多かったとも思います。

 私(木村)は、司法の役割は、人権、特に社会の少数者の権利を守ることだと考えています。私は、その司法に関わる者として、また一市民として、自分や子どもたちに「茶色の朝」が来ないようにしていきたいと考えています。


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