←前のページ 次のページ→   2002年8月1日  
★施行後3年の再検討を盛り込んだ

「児童虐待の防止等に関する法律」の見直に寄せて

 弁護士 木村 真実 
児童虐待が毎日のように新聞をにぎわせています。
私は、所属している第二東京弁護士会子どもの権利委員会や地元の子どもの虐待防止市民ネットワーク多摩などで子どもの虐待について勉強しています。その中で、しばらく前まで子どもだった者としてこの社会の中で子どもとして育っていくことのたいへんさを感じるとともに、これから子どもを育てる者としてこの社会の中で子どもを育てることのたいへんさを感じています。
児童虐待に対する法律として、施行後3年の再検討を盛り込んだ児童虐待防止法が制定されました。今後は、児童虐待防止法の改正を求める全国ネットワーク
http://www.geocities.co.jp/NeverLand-Mirai/3054/)などの市民団体のほか、弁護士会でもあるべき改正についての議論がなされていくものと思います。
以下は、私が子どもの虐待防止市民ネットワーク多摩で話したときのレジュメに手を入れたものです。みなさんのご意見をいただければ、と思います。
◆はじめに
2000年5月17日成立、同年11月20日施行の児童虐待の防止等に関する法律(以下「法」という。)には、施行後3年を目途として児童虐待の防止等のための制度について検討を加えるという附則がある(法附則第2条)。この法は、既存の法制度がより実効的に機能するよう、通知や運用に法的根拠を与えたものであるが、国会で児童虐待が正面から取り上げられて議論され、戦後初めて虐待をテーマとした法律が制定されたことは評価されるべきである。
しかし、不十分な点も各方面から指摘されており、成立直後から見直しに向けた議論が始まっている。
ここでは、法への評価を概観し、1年半後に迫った見直しに向けた議論のひとつの契機としたい。
◆法への評価と03年に予定される法の見直しの課題
1 目的
法の目的の中に、治療、ケア、家族の回復などが盛り込まれることも検討されるべきである。
2 定義
(一) 法は、初めて法律上児童虐待の定義を定めた
すなわち、「保護者がその監護する児童に対し、1ないし4号の行為をすること」である。
ただし、3条では、保護者による児童虐待のみならず、「何人も」「幅広く児童の福祉を害する行為や不作為までを含むもの」としての虐待が禁止されており(その定義は法律上はない)、保護者以外によるもの、あるいは2条各号に定められた行為以外の虐待についてどのように対応するのかは明確ではない。
(二) 「保護者」「監護する」については、児童福祉法第6条における「保護者」及び「監護する」と同様に解釈すべきとされているので(平成12年11月20日付厚生省児童家庭局「児童虐待の防止等に関する法律の施行について」、以下「通知」という。)、例えば児童の母親と内縁関係にある者が児童を現実に監督していれば「保護者」にあたる。
この点、特に施設内での児童同士の暴力の存在を指摘し、(擬)兄弟姉妹からの虐待も対象とすべきとの指摘もある。虐待より広義の「マルトリートメント」の主体の中には含まれると解されており、次に述べる「虐待」の定義の問題と併せて、マルトリートメントのどこまでを虐待の範疇に含めるかという問題だと考えられる。
また、特に性的虐待を念頭に、性的虐待を性の逸脱行為(性非行)としてではなく被害であることを明確にする観点から、虐待の主体を「保護者」に限定することに疑問を呈するものもある。子ども買春禁止法などとも関連するマルトリートメントの問題である。
(三) 「児童」については、児童福祉法同様「18才に満たない者」とされているが、民法818条1項が20才未満の者に対する親権を定めていることから、その間隙を埋める必要性が指摘されている。また、20才を越えても親による暴力、親の過度の依存、干渉などの問題がある。
多くの子どもが通う3年制の高校を卒業する18才を法律上の成人とした上で、それ以上の子どもに対して自立支援などの方策が採られるべきだと考える。
(四) 「児童虐待」の定義を定める各号は、基本的には伝統的な4分類にしたがったものである。
この4分類で足りるかについては議論があり、民主党の「児童虐待の防止及び対策に関する法律案」では、「その他これに類する行為」を掲げていた。
しかし、「児童虐待」とされることによって親・子双方にさまざまな効果が発生することを考えれば、「児童虐待」の定義はできる限り明確な方がよい(この観点から法2条2号の「わいせつな行為」は、不明確である)。
マルトリートメントを
1 18才未満の子どもに対する
2 大人、あるいは行為の適否に関する判断の可能な年齢の子ども(およそ15歳以上)による
3 身体的暴力、不当な扱い、明らかに不適切な養育、事故防止への配慮の欠如、言葉による脅かし、性的行為の強要などによって
4 明らかに危険が予測されたり、子どもが苦痛を受けたり、明らかな心身の問題が生じている状態
と定義し、このマルトリートメントを、法3条で禁止される虐待として児童虐待の上位概念に位置づけることも考えられる。
(五) 児童虐待をした者に対する罰則の新設は見送られた
(1) 確かに、刑事法の適用によって加害者たる保護者に反省を促すことができ、また逮捕による親子分離の実現による子どもの保護という側面はある。
 しかし、虐待者の生ずる家庭の多くは、種々の問題を抱えていて援助を必要とする弱者であることが多く、児童にとっても家庭の修復が最善の利益であることが多いのであって、「虐待」の定義にあてはまるものを一律に処罰することにはデメリットも大きい。
もちろん、他人の子どもにすると処罰される行為を自分の子どもにして許される道理はなく、自分の親から犯罪的行為をされることは第三者に為されるよりも救いのない事態であるから、現行法上の刑事法規に触れる場合には刑事的介入が行われるべきである。虐待防止法14条2項は、親権が違法性阻却事由にならないことを明確にしたが、今後は、虐待が刑事法規に触れる場合には積極的に介入する態勢作りが望まれる。
そして、かかる現行法上の刑事法規の積極的な運用をすれば、児童虐待防止罪の新設は不要であると考える。なお、1999年5月、「児童買春児童ポルノ禁止法」が成立し、性的虐待に対する新しい犯罪類型が創設されたことも注目される。
被虐待児は、密室犯罪の被害者として取調べの対象となるが、現行実務の運用では、心理学的に何らの工夫もされておらず、被虐待児が二次被害にあうこともあるようである。被虐待児へのインタビューについての外国の研究(Forensic Interview)の導入、虐待捜査専門官の配置などを検討する必要がある。
保護観察処分の遵守事項として「ケア受講命令」を発するとか、福祉犯として家庭裁判所の管轄とし刑罰に代替する処分として家庭の修復に最も必要と考えられる措置を採るなどの提案は魅力的である。
3 禁止
2で議論したが、2条の「児童虐待」と「虐待」の違い、「虐待」をした場合の効果について明確にすべきである。
4 国及び地方公共団体の責務等
(一) 国及び地方公共団体の責務として、「関係機関及び民間団体の連携強化」が明記された。
ここで「関係機関」とは、中核的機関である児童相談所を核として、福祉事務所、保健所、市町村保健センター、主任児童委員を始めとする児童委員、児童福祉施設、里親、保護委託者、市町村、家庭裁判所、学校(幼稚園を含む)、教育委員会、警察、医療機関、人権擁護機関、精神保健福祉センター、教育相談センター、社会教育施設などが想定されている。
関係機関の連携の努力は現場でも意識されているが、最近のいくつかの事例では、期間の連携不足が重大な結果を引き起こしており、一層の努力が必要である。
また、我が国の虐待への取り組みは、民間団体が積極的な役割を担ってきており、民間団体との連携強化が法律に盛り込まれた意味は大きい。
既に、児童相談所との間に覚書などを交わして連携関係を明確にしたものもあるが、今後いっそうの連携強化が図られるべきである。
(二) 2項で「児童相談所等関係機関の職員の人材の確保」がうたわれた。
虐待は家庭内など主に閉ざされた空間であることを考えれば、児童相談所への相談件数の増加は、虐待数の絶対数の増加ではなく、児童相談所職員やその他の子どもに関わる人々の意識が高まった結果、これまで見過ごされてきたものに気付くようになったり、掘り起こされたりして相談や報告の数が増加したと考えられる。しかし、1990年度に1101件だった児童相談所に置ける「虐待」を主訴とする相談件数が、10年間で10倍以上になっているのは確かであり、児童福祉司の数はまったく足りていない。報道される事例の中には、人的に充足していれば子どもの死を免れたのではないかと思われる事例も少なくない。早急に抜本的な人員増がなされるべきである。
また、職員の「資質の向上」もうたわれた。現行児童福祉法では、児童福祉司の任用資格として、大学で心理学科等を卒業した者や医師などのほかに、それらに「準ずる者」と定められ、この「準ずる者」が拡大解釈され、専門性を有しない行政職の職員が任用されているとの批判が少なくなかった。法の附則3条は、「準ずる者」に代えて、「前各号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者であって、厚生省令で定めるもの」としたので、資質の向上が期待される。
5 児童虐待の早期発見
通告義務については、医療関係者や学校関係者など一定の職種については、虐待と知りながら通告を怠った場合に罰則を科すべきか否かが問題になっていたが、今回は早期発見の努力義務に止めた。ただし、6条1項で発見した者は通告しなければならないとされている。
医師、教師、弁護士や保健婦などが親の相談を受ける中で、虐待を疑った場合、通告するかどうかは問題である。通告される親は医師にかかったり、教師、弁護士や保健婦に相談することを避けるであろうし、そうすると虐待の歯どめを担っている自発的な相談を封じる恐れもある。また、親が通告されたことを知れば信頼関係が決定的に喪失し、その後の親へのアプローチが困難になるからである。しかし、医師や教師などが虐待の第一発見者になる可能性は大きいし、その情報が救出の際重要な役割を果たすことも多い。法は、いかなる場合にも通告義務を課すように読めるが、見直しの際、親との間に信頼関係のある場合を除外するか、あるいは一律に通告義務を課した上、一定の職種がこの義務に反した場合には罰則まで科すか、については今後一層の議論が必要だと考える。
6 児童虐待にかかる通告(1)
6条1項は、「児童虐待を受けた児童を発見した場合」とあり、虐待の疑いのある場合を含まないように読めるが、虐待の有無を調査し確認するのが児童相談所の仕事であり、通告者に証拠の提示を求めるべきでないから当然に疑いのある場合も含むと解するべきである。
6条2項は、一定の職種についての守秘義務の解除は定めたが、刑事免責・民事免責については規定しなかった。一般国民にこの種の免責が伴うと、無責任な通告がなされるのではないかとの危機感があったからのようであるが、その危惧は別途悪意・故意による場合の例外規定を設ければ足りるのではないか。
7 児童虐待にかかる通告(2)
通告者を特定する情報を与えない解釈は従前から行われていたが、条文化することによって疑義を払拭し、通告を促した。
8 通告または送致を受けた場合の措置
安全確認義務については、他の機関や団体を通じて確認しても良いと考えられる。
一時保護にも関連して、附則3条は、児童福祉法45条に定める「最低基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な最低水準を確保するものでなければならない」と定め、さらに児童福祉施設の設置者は水準の向上を図ることに努めるとされた。施設での虐待が報じられ、施設が必ずしも安住の地でないことが明らかになった現在、今後の水準の向上への努力が注目される。
9 立入調査
児童福祉法29条では、文言上28条の措置を採ることを前提としていなければ立入調査権を行使できないようにも読めたが、法は、「児童虐待が行われているおそれがあるとき」として、28条の場合に限定されないことを明文化した。
10 警察官の援助
発案者によると、親が立入を拒否している場合(児童福祉法62条1項に罰則はある)には、警察官が現行犯的推定で解錠し、中に立ち入って調査するのが児童相談所職員ということを考えたようである。しかし、「家の中で傷害行為が行われているらしい」程度で現行犯とすることはできず、警察官の行為は警察官職務執行法(6条は犯罪がまさに行われようとしているときに他人の建物に入ることを認めている)上のものにとどまるであろう。児童相談所職員に強制的立入権を認めるには令状の付与が必要であり、そのために法律上の根拠を与えるべきと考える。
11 指導を受ける義務等
児童福祉法27条1項2号が定める児童福祉司等による指導に従うことが義務であることを定めた。指導を担当した児童福祉司が施設入所措置の解除の際  に意見を述べること(法13条)で指導に従うことを促し、罰則はない。
親子分離後、子どもが施設に収容されるのに対し、親は何らの手当なく放置されてきたことから家族の再統合が困難になるとの指摘がつとにあった。法は  これを意識したものだが、親のケアへの手当が弱い。適切なケア機関の紹介、費用の公費負担、裁判所によるケア命令等を積極的に検討すべきである。
12 面会または通信の制限
従前解釈によっていた面会・通信制限の法的根拠を28条の場合について明らかにしたものであり、一時保護や同意による入所の場合にも従前どおりできると解される。ただし、立案者は否定的なようであるので、見直しの際、明確にすることが望まれる。
13 児童福祉司の意見の聴取
児福法では、児相所長の意見を聴取することになっていたが、担当児童福祉司としたものである。
14 親権の行使に対する配慮
親権が虐待の言い訳に使われることが多いことに鑑み、親権の適正な行使を定め、親権が刑事法規において違法性阻却事由とならないことを定めた。
親権については、子供を支配する権能でないことの明確化、一部制限、期間制限など親権制限の柔軟化等の見直しが必要であると考える。
5 親権の喪失の制度の適切な運用
親権の喪失制度が、虐待において重要な役割を果たしうるにもかかわらず、ほとんど活用されてこなかったことに鑑み、「適切な運用」を義務づけた。
16 大都市の特例
 
◆制度的な課題
1 以上、たいへん雑駁ながら、法の条文に従って、評価を概観し、一部私見も加えてきた。
しかし、法附則2条が施行後3年を目途として検討を加えるとしたのは、法自体ではなく、「児童虐待の防止等のための制度」についてである。
従って、条文を離れ、いくつかの制度的課題についても指摘しておく必要があろう。各条文のところで触れたもの以外で気づいたものについて触れる。
2 まず、
A 統一的な法制度の創設である。虐待に対する中核法である児童福祉法が児童虐待以外のものも対象とする総合福祉法であり、虐待防止法もその修正的性格を有するものであって、虐待に対する統一的な法制度が存しないことは既に述べた。
次に、
B 児童相談所の持つ、@親子分離による子の保護とA家庭機能の回復のための治療という矛盾する2つの機能の再編である。親と敵対関係になった児相に親のケアをさせることは困難である。
さらに、
C 分離後の子どものケアと親のケアについてのフォローが必要である。子どものケアについて、現在は施設に委ねている部分が大きいが、施設内での虐待が問題にされているなかで、子どものケアについてさらに制度的に取り組む必要があると考える。
これに関連して、
D 家族再統合への道筋の確立が必要である。最近の虐待をめぐる報道を見ていると、「分離をすれば助けられたのに…」と感じることが多いが、児相が分離を躊躇する背景のひとつに、統合までの見通しがつかないということがあると思われる。
これらの問題を解決するにあたって是非とも必要なものが機関協力である。その必要性は各方面から指摘されているが、ケース会議等を通じ、日常的な連携を確保することが必要である。
3 こうした制度的課題を考える上で忘れてはならないのは、虐待に対する介入は、親の人権を制限し、子にも大きな影響を与えるという事実である。介入をすべきときにはし、すべきでないときには控える、このことが実はたいへん難しいことなのである。
《参考文献》
 昭和8年にも「児童虐待防止法」が成立、施行されたが、期待したほど効果があがらなかったようである。高橋重宏編『子ども虐待』有斐閣2001年64頁
日本子ども家庭総合研究所編『厚生省子ども虐待対応の手引き平成12年11月改訂版』有斐閣2000年15頁、高橋重宏編『前出』47頁
後藤弘子「児童虐待防止法の成立とその課題」現代刑事法2000年10月号現代法律出版51頁
子どもの虐待防止センター(http://www.ccap.or.jp)「子ども虐待防止立法についての基本的な考え方
後藤弘子「前出」50頁
Forensic Interviewについては、CCAP報告書など参照
参議院法務委員会での質疑の中で、刑事事件化された場合、検察が児童虐待事案の再発防止に向けて所要の処置をとるということ、場合によっては、検察官がカウンセリングの受講を薦めることも可能であること、仮出獄や執行猶予付保護観察処分の場合、関係機関との連携を密にし、医療的措置やカウンセリング受講を助言するなどのよりきめ細やかな処遇を実施することが、矯正局長、保護局長の答弁として行われている。後藤弘子「前出」 51頁
 岩井宜子「児童虐待問題への刑事規制のあり方」ジュリスト2000年11月1日号有斐閣21頁
厚生省児童家庭局長通知「『児童虐待の防止等に関する法律』の施行について」(日本子ども家庭総合研究所編『前出』324頁)
10 朝日新聞2001年
11 高橋重宏編『前出』66頁、204頁
12 高橋重宏編『前出』226頁には、北海道児童相談所と北海道子どもの虐待防止協会の例が掲載されている。東京都と社会福祉法人子どもの虐待防止センターの連携もなされている
13 嬰児殺や親子心中は、人口の増加にも関わらず戦後一貫して減少傾向にある。高橋重宏編『前出』82頁
14 全国児童相談所研究会代表委員会『「児童虐待の防止等に関する法律」成立にあたっての見解』
15  子どもの虐待防止センター「前出」。なお、石川稔「児童虐待をめぐる法政策と課題」 ジュリスト2000年11月1日号6頁は、とくに、医師に罰則付きで通告義務を強制するべきと言う
16 石川稔「前出」2頁
17  子どもの虐待防止センター「前出」
18 吉田恒雄「児童虐待と親権の制限」ジュリスト2000年11月1日号18頁

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