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●連載4 |
弁護士 木村 真実 |
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●被害者の代理人(文中の事件はまったくのフィクションです。) |
K |
ねえねえ、仕事中悪いんだけど。 |
Y |
今電話中です、「はい、はい、よろしくお願いします」。それで、何ですか。 |
K |
この前はいろいろありがとう。おかげさまで検察官にも「本人はまだ隠しているような気もしますけど、どちらにしても盗んだ、とまでは言い切れませんね」って言ってくれて、家裁に送致されないで家に帰れたじゃん、俺初めてだよ。 |
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ところで、初めて犯罪被害者の代理人を受けることになったんだけど、Yさん、この前苦労してたよね。 |
Y |
強制わいせつの被害者なんですが、気持ちが落ち込んでいるのに寄り添うのってたいへんですよね。 |
K |
いやあ、そもそももう二度と会わないようにしたい、その前にきちんと謝って欲しい、っていうんだ。 |
Y |
そりゃあ、当然ですよね。もう捕まっているんですか。 |
K |
いやあ、それがまだでさあ、でも、被害届を出すとしかえしされそうで怖いっていうんだ。 |
Y |
うーん、その気持ちもわかるなあ。 |
K |
でも、出さないといつまでもはじまらないこと、少年事件の流れを説明して、加害者の少年たちはおそらく鑑別所に行くことになること、少年院に行く可能性もあること、いずれにしても警察や裁判所に知ってもらうことが、ブレーキになることなんかを説明したよ。 |
Y |
それで、被害届を出すか、告訴するかしたんですか。 |
K |
昨日、告訴状書いて警察に行ってきたんだけど、警察の方は親告罪じゃないから、被害届の方がいいって。 |
Y |
告訴に伴ういろいろな義務(注1)が面倒なんじゃないかなあ。 |
K |
それと、届け出れば、当然被害者として調書を取られること、それが争われた場合には審判に出なくちゃいけないかもしれないけれど、その場合にも保護措置がとられること(注2)も説明した。 |
Y |
少年事件でも、被害者として意見をいう機会ができたでしょう(注3)。 |
K |
うん、ただ、今はそんな気分にはなれないって。 |
Y |
それで、被害少年の代理人になるのですか。 |
K |
お父さん、お母さんもしっかりしているし、費用のこともあるから、まずは何度か相談にのって、示談や損害賠償請求の裁判なんかで代理人として弁護士を使いたくなったら、代理人になりますって言ってある。 |
Y |
そうですね。損害賠償って言えば、その証拠にするためにも、少年事件記録の謄写請求(注4)はしとかなくっちゃね。 |
K |
そうだね、それは大事だよね。 |
【用語解説】 |
注1 |
告訴状と被害届 |
被害届は被害の事実を届け出るもの。 |
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告訴は、捜査機関に犯罪事実を申告して、その訴追を求める意思表示。親告罪(強姦、強制わいせつ、器物損壊等)の場合には、告訴がなければ起訴できず、その他の事件も含め、告訴した場合には、1、警察官は必ず検察官に事件を送致しなければならない、2、起訴・不起訴の処分について通知する、3、請求があれば不起訴理由を通知する、といった措置が義務づけられる。 |
注2 |
公判、審判における被害者保護措置 |
争いのある事案等で、被害者が証言する場合、被告人・少年を退廷させたり、別の部屋で証言したり(その映像を被告人・少年のいる法廷につなぐ)、被告人・少年席との間に遮蔽をしたり、といった措置が認められるようになった。 |
注3 |
意見陳述 |
少年審判は、非公開だが、証人として証言する場合(争いがある場合)のほかに、被害者として意見陳述する機会が与えられるようになった。どれほどつらかったかを裁判官に直接伝えたり、調査官(裁判官を補佐する教育や心理のプロ)に伝えたり、文書で出したりできる。 |
注4 |
記録謄写 |
少年事件の記録は、民事の損害賠償請求の裁判を起こすときの有力な証拠になる。そこで、被害者には少年事件記録を閲覧謄写することが可能になった。 |
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