←前のページ 次のページ→   2003年5月1日  
●連載その11
 弁護士に黙秘を進められているようだけど、弁護士なんて他人だから、いざというときには逃げ出すぞ。」事務所の弁護士がやっていた事件で、取調べを担当した警察官がこう言って自白するように迫ったそうです。 
 僕は、弁護士になってから何件かの「やっていない」事件を経験しました。「やっていない」事件では警察官に「やっていない」と言えばいいようにも思います。
 しかし、その言い分を書類にするのは、味方である弁護士ではなく、自白をさせたいと思っている警察官や検察官です。「やっていない」とだけ書いてくれればいいのですが、微妙に認めたようなニュアンスにされてしまう恐れもあります。法廷と違い、取調室でのやりとりは弁護人の目にも裁判官の目にも触れません。
 また、警察官や検察官は前の調書の内容を確認しながら聞くことができますが、被告人は自分の調書の言い回しを確認することができません。真実ならばおなじ事を言い続けられるという人がいますが、何日かにいっぺん、特定のできごとを説明してみれば、普通そうはいかないことがわかります。法廷で一度だけ真実を話したいと思うのは当然ではないでしょうか。
 取調室で毎日警察官や検察官にしゃべることを求められる被告人にとって、黙秘は憲法が保障してくれた最大の防御策です。そして、弁護士は多くの事件の経験を通じてそれを知っているからこそそれをすすめ、警察官や検察官は逆に黙秘させないようにするのです。
 冒頭の事件では、弁護士が片道1時間半かかる警察署に毎日接見に通い、黙秘する人を励まし続けました。起訴されずに済んだその人がその弁護士に感謝したのは言うまでもありません。
 その姿を見ながら、他人である弁護士が刑事弁護をする原点のようなものを改めて確認したような気がしました。

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