←前のページ 次のページ→   2002年10月1日  
●連載その4
僕が、疑われているとおりです、と認めた人の弁護で、重視することの2つめは、家族や彼女との関係の維持・修復です。
 Cさんは、厚意で泊めてくれた職場の同僚の部屋からお金を持ち逃げしたということで逮捕されました。会いに行くと、家族とはしばらく連絡していないが、できれば母親に会いに来て欲しいし家族と連絡を取って欲しい、と言います。僕も彼が刑務所に行かずに済んだとしてもその後の監督をしてもらわなければいけないし、示談金の用意ができるのか聞きたいと思って、Cさんから聞いた番号に電話をかけました。
 でも、電話に出たお母さんは「家の金にも手をつけた。年金暮らしで余裕はないし、刑務所に行ってもらいたい」と言うのです。どうやらCさんが家に寄りつかなかった原因は家の金に手をつけて半ば追い出されたからのようです。
 お母さんが怒るのも無理はありません。僕は、電車とバスを乗り継いで1時間半ほどかかるご自宅までお邪魔して、Cさんが警察署で初めて身柄を拘束され反省している様子を伝え、とにかく一度会いに行ってやって下さい、とお願いしました。他方でCさんにはお母さんが怒っていることを伝え、手紙を書いてもらいました。お母さんに書いた初めての手紙です。この手紙を読んだお母さんは、「とにかく顔を見て話をする」と言って、警察まで会いに行ってくれました。
 警察では2人ともたくさん泣きました。その後お母さんはなけなしの貯金をはたいて示談金を用意してくれ、法廷にも立ってくれました。今後は社会に絶対に迷惑をかけないで欲しいと語ったお母さんの言葉がCさんにきちんと届いたことは、その後の被告人質問で裁判官も確認できたと思います。
 それでもCさんは全部許してもらえたわけではなく、しばらくは住み込みで働きながら示談金を返済し終わったら家の敷居をまたぐということになりました。
 刑事弁護人が被告人の人生に関われることはほんのわずかですが、最初は「もう電話しないでくれ」といわれたお母さんに、判決が出た後感謝されたとき、Cさんのこれからの人生に少しは役に立った気がしたのでした。

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