←前のページ 次のページ→   2002年9月1日  
●連載その3
「どうして悪い人の弁護をするのですか」。その答えのひとつが、「悪い人じゃないから」でした。
 答えになっていない、と思った人もいたでしょう。これからが本番です。
 僕が、疑われているとおりです、と認めた人の弁護で、重視することの1つが反省をし、被害者の方にお詫びすることです。
 Bさんは、職場で横領をしたとして逮捕されました。逮捕される前に横領の事実についてはすべて警察官に話していて、それがきっかけで離婚もし、2人の子どもとも別れることになりました。その原因は、別の会社で部下の成績を上げるために作った借金の返済に追われて、ということで、本当にかわいそうだと思いました。しかし、横領された職場では、Bさんの誠実そうな人柄を見込んでお金の管理を任したのに、裏切られた、と強く恨んでいます。その上、Bさんに弁償するお金がなかったためか、第一審の弁護人は、お詫びの手紙も出していません。
 僕が初めてBさんに会ったときに言ったことは、まずお詫びの手紙を出そうということでした。そして僕の手紙も添え、会社に送りました。しかし、その手紙は「受取拒否」で戻ってきました。その後会社に電話をしましたが「外出中」が繰り返され、会社を訪ねても会ってもらえませんでした。会社の怒りは相当のものでした。
 それでも被害弁償の用意だけはしておこうと、田舎の両親に連絡を取ってお金を用意してもらいました。そして、裁判が始まる前、しかたがないので、供託(法務局に預けて被害者が望めばいつでも下ろせるようにすること)しました。
 裁判が始まり、僕が被害者の会社との交渉の経過を述べると、裁判官から供託金を取り戻すように検察官からも勧めて下さい、との話がありました。そして検察官からの話を受けて会社は供託金を受け取り、そのことが被害弁償と評価されて、Bさんは刑務所に行かずに済みました。
 一生懸命にお詫びをしようとし、そのことが評価されて刑務所に行かずに済んだということはうれしかったです。でも、会社が本当に許してやろうと思って供託金の受け取りをしたわけではありません。そのことを考えると、被害者にお詫びをすることの難しさを強く感じるのです。

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